2017年1月8日日曜日

成立中の会社と緊急帝王切開

出産の前にお医者さんから「もしもの時は奥さんとお子さんどちらを選びますか?」と聞かれたというのは、たまに聞く話です。皆さんだったら、どう答えますか?
人によって答えは違うでしょうが、「(子供はまた作ればいいので)家内を助けて下さい。」と答える人が多いのではないでしょうか?

さて、奥さんを助けることにした皆さんに2つ目の質問です。子供が無事に生まれ、高校生になりました。船に乗っていたら奥さんとお子さんが両方とも海に落ちました。手元には浮き輪が1つしかありません。どちらを助けますか?(「子供は水泳部だから家内を助ける」とか、そういう答えはなしでお願いします。聞きたいのは、高校生の子供と奥さんどちらが大切かということです。)
この2つ目の状況では、「子供を助ける」と考える人が多いのではないでしょうか?
そうです。出産の時と優先順位が変わっているのです。

では、いつ、どの瞬間、この優先順位は入れ替わったのでしょう?
生まれた瞬間?生後2ヶ月?3歳になったら?小学生になったら?あるいは奥さんが閉経した時?
人によって答えは違うでしょうし正解はありませんが、考えてみると結構奥が深いですね。

法律的にこれを評価するとどうなるでしょう?
相続などの限られた場面で胎児にも権利能力が認められているものの(民法886条)、権利能力は出生により取得するというのが民法上の原則です(民法3条)。つまり、民法的考え方では、お医者さんが「はい、17時37分無事出生です」と言った時点で赤ちゃんも大切な家族になる、ということです。
刑法上は争いがありますが、判例では一部露出説が採用されています。つまり刑法的考え方では、外から赤ちゃんが見えた時点で大切な家族になるということです。
会社法は組織法ですが、設立中の会社を胎児ととらえると、設立中の会社が法人格(つまり完全な権利能力)を取得するのは設立登記のタイミングです(会社法49条)。設立中の会社の権利能力(つまりは発起人の権限)をどの程度まで認めるかについては争いがありますが、判例上は法人たる会社の設立それ自体を直接の目的とする行為に発起人の権限は限られています。つまり、会社法上は出生届を出すまで赤ちゃんは家族ではないものの、出生に必要不可欠な事項については家族として取り扱われる、ということですね。

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