2017年6月11日日曜日

トランプ大統領とベイズ統計学

2016年11月、アメリカの大統領選挙でドナルド・トランプが勝利しました。トランプ氏は、大衆迎合的であるとして既存メディアからは批判されていましたが白人労働者階級の支持を得て勝利した、とされています。
2016年6月、イギリスにおいてEU離脱に関する国民投票が行われ、離脱派が勝利しました(Brexit)。人の移動を自由とするEUという枠組みにより治安が悪化していることを懸念した年配の投票者が離脱派を支持したと言われています。
どちらの場合も、その投票結果が「(本当はどうかはさておき)望ましくない」とされている結果になったことから、民主主義の暴走、ととらえる人が多いのは事実です。

確かに、民主主義には重大な欠陥があります。
この記事を読んでいるあなたも、この記事を書いている私も、ニュース番組で話している評論家も、特に働かず親の年金で活きているニートの方も、トヨタの社長もパートタイマーも、次回の選挙では全員等しく1票を持っています。
こんなおかしなことはありません。
読者の皆さんと私、評論家とニート、社長とパートタイマーが、全員同じだけ今の日本に貢献し、全員同じだけ日本の将来について真剣に考えていて、正しい日本の在り方を考える能力が全員同じなのであれば、確かに全員等しく1票を持つことは許されるかも知れません。
ですが、払っている税金の金額も、毎日真剣に考えている時間も、能力も、全く異なる全員が1票を等しく持っています。
繰り返しますが、こんなおかしなことはありません。

ウィストン・レナード・スペンサー=チャーチルは、ナチスドイツと闘ったイギリスの首相として有名ですが、こう言っています。
  • "democracy is the worst form of government"
"democracy is the worst form of government" つまり、民主主義ほどくだらないシステムはない、と言っているのです。チャーチルは、民主主義の持つ根本的な欠陥を看破していたのです。

では、どうすればいいのでしょう?どうすれば、正確な結論を導く選挙が実現できるのでしょうか?
年収が1500万円以下の人からは投票権をはく奪すればいいのでしょうか?
バラエティー番組とドラマを見ている人の投票権を半分にし、ニュース番組と日経新聞を読んでいる人の投票権を倍にすればいいのでしょうか?
全国民に選挙前にテストを受験させ、点数によって投票権の数を変えればいいのでしょうか?
正確な結論を導く選挙を実現するためには、正しい日本の在り方を見つけられる確率が高い人と低い人を区別する必要があります。 確率が高い人の方が、低い人より重い投票権を持つようにすればいいのです。

確率、というのは難しい概念です。
(1~6の目が書いてある)サイコロを振って1が出る確率は6分の1だとされています。
さて、ここでイカサマされた(1~6の目が書いてある)サイコロがあるとして、1が出る確率はいくつでしょうか?
この時の確率に対する考え方には色々あります。
「どうイカサマされたか分からないから、確率なんてこれだけでは分からない」という考え方もあれば、 「どうイカサマされたか分からないけど、取りあえず判明している情報(1~6の目が書いてある)からBest Estimateすると6分の1だ」という考え方もあります。
後者の考え方は、ベイズ統計学の考え方です。

読者の皆さんと私、評論家とニート、社長とパートタイマー、それぞれの正しい日本の在り方を見つけられる確率は、どう違っているでしょうか?
「与えられた情報だけでは少ないからよく分からない」という考え方もあれば、 「全員がどう異なった能力を持っているかよく分からないけど、取りあえず判明している情報からBest Estimateすると全員日本の在り方について同じだけ考えている」という考え方もあるでしょう。
このベイズ統計学風の考え方で捉えると、全員が等しく1票を持つ民主主義の考え方は合理的であると言えるのです。

チャーチルはこう言っています。
  • "democracy is the worst form of government except all those other forms that have been tried from time to time."
「確かに、民主主義ほどくだらないシステムはないが、今までに試みられたどんな統治システムよりも、民主主義がましである。」と。